気になる「大学無償化」の本格化、その2、「切り離される非大卒若者たち」

 前回に引き続き「非大卒」について、島根県出身の学者、吉川徹(とおる)、静岡大学助教授の意見を引用します。

 

 

【朝日新聞記者質問】 

 いま、低所得世帯の進学率は4割どまりです。新制度でこれが8割まで上がり、全学年合わせて最大約75万人が恩恵を受ける、と政府は試算していますが?

 

【吉川徹、静岡大学助教授回答】

 以前、アンケートで子供に大卒以上の学歴を付けさせるべきかという質問をしましたが、新制度の対象となる住民税非課税の低所得世帯で、大学に行かせたいとの回答は他の層の8割程度でした。

 

 「いくら学費負担が軽くなっても、大学や短大にはいかない」という考えの人はいると思います。

 

 政府や有識者は、貧困の連鎖を断ち切るためには「大学に行かせるのが、唯一の方法だ」と考えがちですが、高度成長期以来、脈々と続く「大卒学歴至上主義」は問い直すべき時期に来ています。

 

 拙速な無償化には弊害もあります。例えば、いま大学は都市部に集中しているため、大学進学率が上がれば、「地方の人口減少」に一層拍車がかかるでしょう。若い高卒労働者層の「人手不足」は加速するかもしれません。

 

 

【朝日新聞記者質問】  

 AIの発達や経済のグローバル化などを踏まえると、これからの若者は進学して高度な技術や知能を身に着けるべきではありませんか?

 

【吉川徹、静岡大学助教授回答】

 今回の無償化で大学に進学できるようになる学生が2万~3万人増えても、それがそのまま「高度人材」になるわけではありません。あくまで大学進学のハードルを下げるのが政策の意図です。

 

 

【朝日新聞記者質問】 

 日本の高等教育への公的な支援は先進国中最低レベルです。無償化は、世界の水準に近づく一歩では?

 

【吉川徹、静岡大学助教授回答】

 高等教育の公的負担を増やすことは否定しません。

 

 私学助成金や国公立大学の運営費交付金を増やして大学の入学金や授業料を下げる。所得にかかわらず全員が恩恵を受けられるようにすべきです。

 

 この政策の主眼は、再配分におかれています。住民税非課税世帯の高等教育の学費という支出に限り、特別に再配分する。

 

 実態は所得格差の是正なのに、安倍政権が「高等教育の無償化」と説明するから、「経営の苦しい大学の救済策に過ぎない」などと批判を浴びるのです。

 

 

【朝日新聞記者質問】 

 確かに無償化に対する世論調査では、「賛成」と「反対」が拮抗しています。

 

【吉川徹、静岡大学助教授回答】

 この政策がよくないのは、結果的に、「国は大学に進学しない人を支援しない」というメッセージを発してしまうことになるという点です。

 

 労働人口の過半が短大・大卒層になるのは2030年。

 

 当面は日本の労働人口の約半分は非大卒層が占める状態が続きます。なのに、完全な「大卒社会」になるかのような幻想を生み出してしまう。

 

 

【朝日新聞記者質問】 

 もう大卒層への支援は必要ないと考えますか?

 

【吉川徹、静岡大学助教授回答】

 私が訴えたいのはバランスをとるべきだということ。大卒層と非大卒層は、社会を支える飛行機の両翼です。学歴で機会やメリットの分断が広がっているのに、非大卒層向けの政策はほとんどない。

 

 7600億円の税金を使うなら、大卒層と非大卒層への支援に同額を使うべきです。

 

 

 

以下は、次回のブログで掲載します。